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処方箋なしで病院の薬が
買える薬局があるのはなぜ?

2022/06/01

東京などの都市部で「処方箋がなくとも病院のお薬が買えます」と掲示している薬局を見たことがないでしょうか?
このような薬局は零売薬局(れいばいやっきょく)と呼ばれ、以前は少なかったのですが、セルフメディケーション促進の機運とコロナ禍での受診控えも手伝って徐々に増えつつあります。
一般的には「病院の薬」=処方箋で買うことができる薬と認識してる人が多数でしょう。しかし、そうとも限らないのです。なぜ処方箋なしで病院の薬が購入できるのか、その謎を紐解いていきましょう。

処方箋にある薬が処方箋を必要とするとは限らない

薬局でなんの制限もなく買うことができる「市販薬(OTC医薬品)」と処方箋に書かれた「医療用医薬品」は違うものだと認識している人は多いでしょう。この認識には間違いはありません。しかし、処方箋に記載される「医療用医薬品」も2つに分類されるのです。処方箋に記載がないと買うことができない「処方箋医薬品」と、必ずしも処方箋が必要ない「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」です。
ここまで読めば察しの良い人は気づくでしょうが、「処方箋がなくとも病院の薬が買える薬局」の取り扱う薬は「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」のみなのです。 ただし、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」を処方箋なしで販売する零売と調剤を兼業している薬局も存在します。 処方箋

「処方箋医薬品」と「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」の違い

そもそも処方箋とは、医師が治療に必要と判断した医薬品とその容量、服用方法などを記載したもので、これを薬剤師が確認して調剤するためのものです。「処方箋医薬品」はこの処方箋を元に専門家にしっかり管理されることを前提とした「使用が難しく、副作用等の危険性が高い」医薬品と言えます。これに比べて「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」は医薬品として認可されてからの期間が長く作用が緩やかで安全性が高いとされています。
医薬品の認可状況によって変わりますが現在、医療用医薬品のうち1/2~2/3が「処方箋医薬品」、1/3~1/2となっており、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」は特別な例外ではありません。
医薬品 薬効等の分類から見ると「処方箋医薬品」には降圧剤・糖尿病薬・睡眠薬・抗生剤・抗がん剤・精神安定剤などがあり、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」は鎮痛薬・胃腸薬・風邪薬・抗アレルギー薬・軟膏や点眼薬・下剤・ビタミン剤・呼吸器疾患薬・漢方などがあります。ただし、全てが上記の分類に当てはまるわけではないので、ある医薬品が処方箋医薬品か、それ以外かを知りたい場合はPMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)の提供する添付文書検索などを利用して確認してください。

処方箋なしで薬を買う・売るメリット

薬を得るための支払総額が安くできる
医療機関で処方箋をもらう必要性がなくなるので、医療機関の診療料金や検査代が節約できるのはわかりやすいでしょう。それに加えて調剤薬局での管理料や調剤基本料もなくなります。これらにより支払額がかなり節約できそうですが、必ずしもそうではありません。医薬品自体の費用に保険が適用されなくなるので、総額ではあまり変わらない、逆に高額になる場合もあり得ます。単価が安いものや、少量だけ欲しい場合などに検討するのが良いでしょう。
病院や薬局に行く時間の節約になる
一般的に医療用医薬品を手に入れようとすると、複数の行程を経る必要があります。まず始めに医療機関を受診して医師の診察を受け処方箋をもらいます。その後、調剤薬局に出向き処方箋に従った調剤が行われるのを待って、薬剤師による服薬指導などを受けることでやっと医薬品が手に入ります。訪れる病院や薬局で待つことがなければ良いですが、混み合ってる場合は数時間待たされることもあります。手に入れたい薬が決まっている場合には、非常に便利な薬の入手方法となるでしょう。
欲しい薬を手に入れられる
処方箋に記載される薬の種類や分量は受診した医療機関の医師の判断によって決まります。受診する側から処方内容を相談することは可能ですが、医師・医療機関の処方経験や保険適用上の問題などにより、希望する内容の処方が得られないことも大いにあるでしょう。零売薬局では「処方箋医薬品」以外にはなりますが、希望した医薬品を購入することができます。最近は購入できる医薬品の名称や金額を明示している零売薬局チェーンなどもあり利用しやすくなっています。また零売薬局にも必ず薬剤師がいますので、自身の症状や利用法に併せた相談も行えます。
メリットデメリット

処方箋なしで薬を買う・売るデメリット

利益を生みにくい業務形態
調剤薬局を高く売る価値向上ポイント」でも紹介しましたが、調剤薬局の商品は医薬品というよりも調剤や服薬指導などのサービスです。このサービスについて決められた保険点数を収入として得られるのが調剤薬局なのですが、零売薬局では健康保険が適用されないため、一般的な小売業のように卸売り価格と小売価格の利ざやを得るのがメインの収益方法になります。しかし、取り扱える「処方箋以外の医療用医薬品」は販売から時間が経っており単価が安いものも多く大きな利ざやが見込めません。
そんな中でも最近増えている零売薬局チェーンは時間や手間を短縮したい都市部勤労者向けに特化しているのが特徴で、有料会員制のサービスを提供しているチェーン店もあります。 また、医薬品管理を徹底して省力化するなどの工夫も行ってると考えられます。
利益を生みにくい業務形態
医療機関を受診しないということは、疾患を見逃す危険性が高まると考えられます。使い慣れてる薬でも、いつも違う状態になった場合には医療機関の受診をするよう注意が必要です。
また、医薬品の副作用に対する扱いが保険調剤に比べて難しく、医薬品副作用被害救済制度の対象・補償から外れてしまう可能性があります。「医薬品副作用被害救済制度」とは薬の副作用によって健康被害を受けたり障害が残ったりした場合に、医療手当や障害年金などが給付される救済制度です。この制度は正しい医薬品の利用が前提となるので、医師の診察がなく、薬剤師による服薬指導の義務がない零売では、保険・調剤の薬に比べて正しさの掲示が難しくなり、制度利用のハードルが上がります。

今後、零売薬局はどうなる?

零売薬局はその便利さ・手軽さからメリットでも紹介した通り、購入者のニーズを掴みつつあります。業界団体が発足し、安全性などのデメリットについても対策を講じていくようです。
医療費増大に対するセルフメディケーション普及の波に乗りつつ、店舗数の拡大が見込まれますので、動向を注視すべきでしょう。

M&Aコンサルタント渋民 卓馬

調剤機器メーカーで調剤薬局の新規立ち上げや調剤機器の営業、エリアマネージャーとして調剤薬局10店舗の店舗管理の経験があります。調剤薬局に20年関わってきた経験を元に、経営者の方に寄り添いながら全身全霊でお手伝いをさせていただきます。