売り時を逃すと大きな損失になるかも!?

薬局の事業譲渡は
タイミングが重要!

2021/11/17

以前のコラム「調剤薬局を高く売る価値向上ポイント」でも紹介しましたが、事業譲渡時の売却金額には売却時期、つまり『売却のタイミング』が大きく関わる場合があります。いくら売上を向上していたり黒字経営が継続できていても、売却タイミングによって価値が大きく下がってしまうこともあり得ます。そんなことがないように気をつけておくべきことについてくわしく紹介していきます。

門前病院やクリニックとの
立地関係

病院前やクリニック近隣の薬局、つまり門前薬局の経営をしていると、当然立地が良い方が優遇されることは常識となっています。現在そのような薬局を運営しているオーナーの方は門前薬局だからと簡単に考えていないでしょうか。地図上では非常に近い位置関係にあるようでも次のような場合には注意が必要です。

  1. 大通りを渡らなければならない。
  2. 徒歩で歩く距離が長い。
  3. 病院やクリニックから出て薬局の場所がわかりにくい。
  4. 自身の薬局と門前病院やクリニックとの間に他薬局が参入してくる空き地やテナントがある。

そうです。このような場合には立地的に決して良いとは言えません。それでも売上がよいのであれば、いまのところ競合がいない幸運に恵まれていただけの可能性が高いといえます。

特に気にしなければ「4.自身の薬局と門前病院やクリニックとの間に他薬局が参入してくる空き地やテナントがある。」です。病院やクリニックの門前(出入り口)と貴方の薬局との間に新規出店があった時に普段から来てくれていた患者様が新しい薬局に流れる可能性が高くなるからです。
「風邪で薬をもらうぐらいなら近い方でいいや」と考える、あまり病院に来ない患者様は多くいるでしょうし、いくら患者様の「行きつけの薬局」になるように努力をしたとしても、数週間の一遍程度の通院時のことであれば乗り換えてしまう患者様も一定数あるでしょう。
このような場合には当然、収益は減少し事業譲渡価格にも大きく影響を与えることになります。

近隣病院・クリニックの状況

薬局の近隣病院・クリニックの状況が変化することが大きなリスク要因になるのは言うまでもありません。最悪なのは移転や廃業で”門前”薬局ではなくなってしまうことです。そこまで行かなくとも、近隣病院・クリニックの運営状況によって門前薬局の運命は大きく左右されると言えます。特に下記の点について気をつける必要があります。

  • クリニック医師(院長)の高齢化
  • クリニック医師(院長)の世代交代
  • 病院の標榜診療科の変更、病棟転換、建て替え、移転

クリニックの医師の高齢化は直接廃業に繋がる要因ですが、そこだけの問題ではありません。高齢になればなるほど新しい治療のトレンドなどに疎くなっていきますので、積極的な処方をしなくなっていく傾向が強いです。このような点も含めて医師の高齢化には気をつけておく必要があります。
また、若い医師に世代交代を行うことは、とりあえずの安心材料と言えますが、注意が必要です。クリニックでの診療を長期間行っている医師が次期院長候補であれば、患者様の処方相談などで顔を合わせる機会もあるので、クリニック運営の動向を伺うことも可能です。しかし、「遠方で勤務医をしていた前院長の息子」などの面識がない人物に交代するようだと、クリニック経営動向が全く変わってしまう可能性があります。処方傾向も大きく変化するかもしれません。
世代交代とも大きく関わるかもしれませんが、病院やクリニックの運営や経営の変化も大きなリスク要因です。「標榜科の変更により、ある診療科の患者様が全く来なくなる。」「病棟転換によって、外来がほぼ動かなくなる。」「病棟建て替えで規模が縮小され外来数が減る。」「病院が移転され薬局から遠くなる。」など、病院・クリニック自体はなくならなくとも、門前薬局には大きな影響があります。いつこのような状況になるのかわかりませんので、近隣病院やクリニックの情報にアンテナを張っておき、自身の薬局の価値についても常に把握しておくべきでしょう。

調剤報酬改定による減少

薬局運営には必ず関わってくるのが調剤報酬改定です。2年に1度必ずあることでプラス改定となる場合もありますが、昨今ほとんどがマイナス改定で年々、調剤報酬点数は減少傾向になっています。

現状の加算要因である【地域支援体制加算】【後発医薬品調剤体制加算】を算定している薬局を例として考えてみましょう。

調剤基本料 42点
地域支援体制加算 38点
後発医薬品調剤体制加算③ 28点
合計108点

1枚の処方箋当たり108点(その他点数は割愛)の薬局が1,000枚処方箋を受けている場合。
売上108点(1,080円)×1,000枚=1,080,000円となります。

もし調剤報酬改定にて今後地域支援体制加算は15点。後発医薬品調剤加算は10点となったと考えてみましょう。売上は六割程度になります。

最悪の場合、加点自体がなくなる(つまり両方とも0点)可能性もないとは言えません。この場合はどうでしょう?

売上42点(420円)×1,000枚=420,000円

同じ処方箋1,000枚で売上1,080,000円の薬局と売上420,000円の薬局と、どちらが高額で売却できるでしょうか?極端な表現になりますが、上記のような加点要素は国が「ある程度普及して役割を終えた」または「インセンティブを与えても普及しなかったのでやめる」と決定したら、やめることもあり得ます。このような要素について「結局加算に頼ってる部分の売上は本来の売上ではない」「私は基本、加算は無いものとして購入案件は決めている」と考える経営者(買い手)もいらっしゃることを知っておいてください。逆に「やっぱり加算が取れてる薬局の方が魅力だよね」と思っている方(経営者)は一定数居ますから、どちらかだけでなく、加点がある場合とない場合の売上シミュレーションを行い、自分の薬局の売りを把握して売り時を逃さないように、常に準備をしておきましょう。

M&Aコンサルタント中島 幸平

新店舗立ち上げを含めた調剤薬局勤務12年の経験と、その後の事業継承コンサルティングとしてのキャリアから薬局業界を知り尽くしています。
現場と経営のすべての関係者に喜ばれるコンサルティングを致します。